dream powers

日独英三国同盟



 <※注意>
 1902年に成立する日英同盟の前身として日独英三国同盟構想というものがありました。
 史実では提唱者であるドイツが退き後に日・英両国間で同盟が結ばれますが、今回は「もしこのまま日独英で同盟を組んでいたら」という話となります。(多少ご本家と見解の違いがあるのはあしからずお願いします)
 仮想歴史シリーズ的なIFストーリーが苦手な方はこのままブラウザバックお願いします。



 日本は半ば強張った表情でソファの隅に座っていた。背筋を真っ直ぐに伸ばし脚と手を綺麗に揃え初めて写真を撮られる成人男性のような緊張した気持ちで見た目鮮やかに美しくそれでいて強大な同盟国二人の様子を見ていた。世界を掌握する五大列強の二人が対等な味方として手を差し伸べてくれたのはほんの数年前のこと。軍隊や憲法その他の世界の規範を教えてくれた二人が肩を並べてくれるのは非常に有り難いことだろう。その代わり同盟を組んでから幾年が経った今でも二人と居ると日本はつい緊張してしまう癖があった。自分が場違いであるような現実味を帯びた錯覚がぐるぐると頭の中を巡る。
 現在プロイセンに変わって国としての仕事を担うドイツは急用の為出払っているらしい。同盟国同士での会議、という名目だからドイツを待たせてもらおうかとも思ったが実質早急に話し合わなければならない重要な案件もないようで代理のプロイセンがホストとしてもてなしてくれている。会議というよりも茶会の空気だ。通された部屋も革張りのチェアや平らなテーブルでもない、華やかなシャンデリアと採光の良い大きな窓、金糸を施したソファに象牙仕様に彫刻のなされたエンドテーブルと西洋の御伽噺で見たことがあるような絢爛でだだっ広いサルーンだ。壁には大きな絵が何枚もかけられていて風景画やら肖像画やらが並んでいる。天井まで緻密な造形が掘り込まれており日本は更に身を小さくした。こんな広い部屋を三人しか使わないなど、身に余る贅沢でしかない。
 プロイセンもイギリスも、なにやら今日は上機嫌らしく何か冗談を言い合っている。この豪華な部屋に自然と溶け込んでしまっている。これで二人の間にチェス盤でもおけば完璧ではないだろうか。
 「なぁ、日本? ……おい、聞いてるか?」
 急に水を向けられて日本はふと彼らと同じ空間にいたことを思い出す。完全に先ほどまであちらとこちらで世界が隔絶されてしまっていた。傍観者、あるいは絵本を読む読者の気分で二人を眺めていたせいだろう。長椅子のソファから少し身を乗り出して日本を窺っている。
 「あ、すいません。少しぼーっと……しておりました」
 「いっつもぼーっとしてるくせに、更にぼーっとしてどうすんだよ」
 一人で笑い始めるプロイセンを無視して、イギリスが尚日本を覗き見る。
 「大丈夫なのか?」
 違和感なく腕が伸ばされて、手の甲が頬を撫でる。指で髪をなぞってまた優しく、触れるか触れないか程度に肌を浚われる。
 「え、ええ……ええ。本当に平気ですよ。ご心配ありがとうございます」
 「そうか……いや、お前もあのロシアを相手にした後だ。無理はすんなよ」
 そのまま滑らかな手は引き戻され、イギリスもソファに座りなおした。突然の接触に心臓が口から飛び出るかと思ったがなんとか堪えられたようだ。
 「その対ロシア戦に勝てたのも俺様の多大なる助力のおかげだ。感謝しろよ!」
 「お前の助力って、フランス野郎ボコっただけだろーが」
 「てめーもフランス絞めてたろ!」
 「俺はスペインも脅しといた」
 どうやら日本の与り知らぬ西方では心強い味方が頑張ってくれていたらしい。……ロシアの同盟国フランスと中立のはずのスペインが少し可哀想になってきた。特に二人と隣接するフランスは相当手酷くやられたのだろう。戦争中彼はロシアを助ける姿勢が殆ど見られなかった気がする。
 プロイセンはリクライニングチェアから離れると日本の横の椅子にどっかり座る。にやにやと笑みを浮かべながら背凭れに肘を突きもう片方の手で日本の丸い頭を小突いた。
 「ま、やっぱ何であっても陸軍が強けりゃ勝てるよな。更に感謝しやがれ」
 「あん? 陸主海従なんてまーだ古いこと言ってんのかテメェ。今回の決め手は俺仕込みの海軍があったからに決まってんだろ」
 イギリスの声色から日本の危機察知器官が警報を鳴らし始める。既に縮こまった肩身を更に小さくしながら、あわよくば空気になってしまいたいと願った。
 「……はあ? お海賊様は海しか見えねーのか? 旅順に奉天の活躍も知らねーで言ってんじゃねぇぞ」
 「これだから陸軍バカは。海洋国家での海軍がどんだけ重要かわかんねーんだなぁ。てめーらみてーなイモ軍隊艦砲射撃で一発なんだよ!」
 ああやっぱり予期していた通りの方向になっている。日本は息を潜めながら一点に床を見つめていた。陸軍と海軍は伝統的にどこの国でも仲が悪くなるものだと昔に聞いたことがある。……が、日本国内においては不仲のレベルが異常だ。片やプロイセン流、片やイギリス流と違う様式を取り入れてしまったがためにやれ気性が気に食わないやれ考え方が違うと衝突を繰り返している。それだけならまだ普通だ。日本の陸・海軍はお互いに妨害工作を始めたり協力しなければならない箇所で別々に動いたりと同じ国の軍隊である筈なのにお互いの仲違いにばかり気がいってそれをたまに忘れてくれる。日本としてはぼんやり不思議であったのだが今解答を得た。それぞれの師である二人が元来から仲が悪いせいだ。
 「なぁ、日本? ……おい、聞いてるか? お前もそこの眉毛坊ちゃんに言ってやれ!」
 「てめ! 日本! 構わねぇから泥臭ぇジャガイモ野郎に不満ぶつけろ!」
 ああお鉢が回ってきたこれも予期していました引き篭もりたい。心の中で呪詛のように願望を何度か呟く。幾分か悪くなった空気を吸った。
 「あの、お二人とも。喧嘩を終了して頂けませんか? 貴方達の仲が宜しくないせいでうちの軍にも影響出るんですよね。やれ堅物だ軟弱者だ、上官には逆らうな殿をつけろと場合によるだろと、結構、深刻なレベルで支障出てて困ってるんですけど」
 努めて笑顔を絶やさずに言ったつもりだが、途中頬が引き攣るのを感じた。イギリスとプロイセンは一瞬固まったように見えたが無言のうちに姿勢を正し息をついた。
 「……バームクーヘンうめぇ」
 「……たまには紅茶も悪かねぇな」
 静かになった大広間に紅茶を啜る音が小さく響いた。









アトガキ
夢の日独英三国同盟ていいと思うんですよね……色んな意味で…想像だけで萌え禿る。
私の中では英⇔仏⇔独の三人は三人とも仲悪いイメージ。というか三人が三人とも全力で小突きあってる感じしか…。

『英日 普日 できれば英普日で、もしこの三人が組んだら、みたいな話』でした!
リクエストありがとうございます! 本当に組ませてみたらフランス兄ちゃんが更に可哀想になりました。