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器量カースト制度




 「ははははは! 一人楽しすぎるぜー!」
 人の家に押しかけてきているくせに一人を楽しむというのはどういう了見なのか。日本はぽちのぴよぴよする耳を指で触りながら壁に向かって座り込むプロイセンを見た。突如やってきたかと思えばしこたまぽちの相手をして、飽きたかと思えば一人を楽しみ始めた。意味がわからない。
 「垂れ耳ぽちくんー……戻ります。垂れ耳ー……戻ります」
 仕方ないので日本もひとり遊びに興じるべきかと思いぽちの耳を指で倒しては手を離すことにした。勝手に起き上がってくる小さい耳が可愛らしい。一時期これが楽しくて半日ぐらいはこれで遊んでいたこともあった。ぽちも嫌がる素振りは見せず大人しく日本の膝に落ち着いている。成る程一人が楽しい、というのは言い得て妙である。特に意識したことはなかったが下手にアメリカに振り回され心労が増したりイタリアにキスやらハグやらスキンシップやらとベタベタされて無駄に緊張することもない、一人って楽しい。
 「てめ! 何一人で楽しんでんだゴラ」
 プロイセンに倣って一人で遊んでいただけなのに両横から手が伸びてきて顔を掴まれる。その上何故か理不尽な怒り文句を受けた。ぽちに没頭してたせいで気付かなかったがいつのまにか背後に回られていたらしい。
 「え? 一人を楽しむ空気でしたよね今のは……いたいです」
 親指が両頬に突き刺さってくる。爪をたてられているわけではないがぐりぐりと指の腹で上顎を攻撃するのはやめてほしい。
 「お前みたいなちんちくりんの横に俺様という超イケメンがいるんだぞ? 即ち無条件で崇め讃えておもてなしする義務が発生するんだよ!」
 なんて自分勝手な言い分だろうか。後ろで楽しそうに笑い声をあげているがこちとら全く笑えない。どうやら部屋の一角という空間だけでは不足だったようだ。何か玩具かゲームかでも横に置いておいてあげれば良かったのだろうか。ぼんやり考えていると背中が温くなってきた。頭を掴んでいた手が外れる。両脇から嫌味なほどに長い足が伸びてきて正座している日本の足ごと挟む。
 「さぁ愛でろ! 敬え!」
 頭頂部を二度叩かれて日本ははぁ、と力なく声を漏らした。人間座椅子の状態でしかも椅子状態の人間をどうやって愛でればいいのか。ワケがわからずにぽちくんの頭を撫でる。
 「犬・じゃ・ね・え・だ・ろ!」
 後から頭を突かれた。首が前にガクリと揺れる。
 「理不尽です……」
 手の平で後ろ頭を摩りながら首をひねったがいまいちプロイセンの表情は掴めない。
 「だいたい、どうして顔の良し悪しで上下関係が発生するんですか」
 「あ゙ぁ? おま、お前わかってねーな! 俺みてぇな生まれつきの超絶イケメンは自動的に搾取する側として位置付けられるんだよ!」
 なんというカースト制度。このよくわからない横暴な圧制には反発した方が良いだろうか。ぽちくんが愛らしい顔で見上げてくるので顎を撫でておいた。
 「髑髏師団戦車兵の制服を身に纏いティーゲル戦車で颯爽と登場してくれれば全力で歓待させて頂きますが」
 「それ単にテメェの趣味じゃねーか!」
 ほう、一瞬でバレた。察しがいいだけか、意外に自分の嗜好を知られていたのか。日本が感心していると後ろから突きが三連打。ぐさぐさと指で小突いてくる。
 ここでもう一言二言と適当なことを言って遊んでみるのも一興だろうがそろそろ後頭部が痛くなってきそうだ。ともかく、招いてはいないが客は客だから一応のおもてなしはしておいて満足させておこう。日本はぽちを抱き上げて立ち上がった。畳の上で足を摺りくるりと反転しプロイセンを見下ろす。
 「仕方ないですね。……これよりおもてなしをさせて頂きますが先ずは何かお菓子とお茶を用意してきます。だからその間ぽちくんと遊んでいて下さいね」
 目を丸くして日本を見上げていたプロイセンの表情が俄かに夏休み前の少年のような期待やら喜びやらの混じったものに変わる。任せろよ! と自信満々に答えてぽちを受け取った。受け取った瞬間から全力でぽちを撫で始める。とりあえず犬が好きなのは相変わらずらしい。
 「尻尾振ってんじゃねーぞこのバカ犬! 水につけてガッカリな見た目にしてやんぞ!」
 徐に後退して襖に手をかけると高らかな笑い声と小さな犬の鳴き声が聞こえてきた。どこか安心感のような感情がじんわりと胸の中で広がっていく。あんな孫なら欲しいなぁ、サイズは私より小さい感じで。そんなことを考えながら戸棚を開けてみると苦い苦いと評判の99%カカオという板チョコレートを発見した。パッケージと銀紙を丁寧に剥ぎ取り皿に載せる。それからチョコレートにはコーヒーだろう。マグカップを棚から引っ張ってきた。いつもは和菓子を出していたがこんなのもたまにはいいかもしれない。パッケージの危険マークと「非常に苦いチョコレートです」という注意書きが目に入って一瞬だけ逡巡したがすぐに見なかったことにした。












アトガキ
このカースト制度の頂点はどう見てもぽちくんだ。
勿論この後日本は説明もせずに99%カカオチョコをプーに食わせて悶絶させる気だよ!

『普日 甘めのお話』でした。
リクエスト、ありがとうございました!
ほのぼのしてればどっかに甘みも入ってくるに決まっている! そう勘違いしている管理人です。スミマセヌ。