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千代八千代



 アンティーク調に纏められた廊下を歩くと床が小さく鳴る。今回は会議の為に旧貴族の屋敷を整備し直したのだが外観・調度品・機械との兼ね合い・格調は全て合格点。広さも申し分なく控え室の余裕も十分。各国を招いての会議の場に相応しい出来栄えにドイツは満足していた。
 またドイツは自分の家に居る管弦楽団の世界ツアーを控えていた。世界的に名高い楽団の為それは大仰なものになるのは仕方が無いのだがやはり時間や場所の調整は難しい。会議が開始されるまでの余った時間で確認だけしようと日本を探していた。宛がった控え室には日本の姿は見えずまた廊下を歩く。イタリアの部屋にでも遊びに行っているのだろうか。確かイタリアには西棟のライブラリーを使うよう指示しているのでここから然程遠くは無い。脳内地図に印をつけて順路を確認した。ここから一旦ロング・ギャラリーを横切って西棟までまわるのが最短かつ効率的だろう。見当をつけてから踵を返すと隣の部屋から歌が聞こえてきた。それは低くゆったりした曲で何度か耳にしたことがある。構わず通り過ぎようとしてすんでのところで思い出した。たおやかで荘重な、非道く哀愁を帯びたこれは日本の国歌だ。先日サッカーの試合で聞いた記憶があるから間違いない。
 どうやら日本の部屋を隣と間違えていたらしい、ほっとして扉をノックする。どうぞ、と促す声が聞こえてノブを回した。
 「日本、今度の楽団ツアーについてなんだが……ん?」
 「あり? ドイツじゃんー」
 予想外の間延びした声と金髪に迎えられて室内を見回す。元々令嬢の更衣室であった部屋だが、この隣国と壁に掛けられた肖像画ぐらいしか人影はない。隠れられる場所もない。
 「どったん? 日本なら隣やし」
 ポーランドは両手を頭の後ろに組んでソファから半ばズリ落ちたような形で行儀悪く座っていた。折角の上品そうなグレーストライプのスーツは既に皺が寄っている。
 「……この部屋はお前の部屋か?」
 「自分で振り分けといて忘れたん?」
 やけに明るい声でケラケラと笑われ返答せずにドイツはもう一度脳内地図を確認する。どうやら初めの認識で間違っていなかったらしい。一言だけ謝ってそのままドアを閉めようと手を引くと隣から挨拶される。「ああ、おはよう」それに答えながら振り向くと同じくスーツ姿の日本が居た。
 「日本、良かった丁度探していたところだ」
 「え? あ、すみませんアメリカさんに新作ゲームを貸しに行っていたもので」
 そのままドアを閉めようとして、ドアの間に入ってきたものに阻まれた。ポーランドが部屋から出てきてぶつかったらしい。しかし痛がる様子もなく廊下に躍り出て日本の隣に陣取った。
 「マジ久しぶりやし! な、元気しとった?」
 「お久しぶりです。ポーランドさんこそご健康そうで何より」
 ドイツは二人を交互に見て首を傾げる。ポーランドは人見知りが激しく殆ど知り合いとしか話さないし、また彼の周囲にいる国と話しているところしか見たことがないのだが日本にはどうやら親しみがあるようだ。警戒の色がうっすらとも見えない笑顔を見せている。
 「ポーランド、すまんが今だけ日本を貸せ」
 「あっスミマセンドイツさん。ご用件はなんでしょうか」
 会話に花を咲かせ始めたのを見てドイツが慌てて割って入る。中断させるとすればここしかないだろう、雑談よりも先に用件だけ済ませておきたかった。ポーランドは一瞬不満そうに唇を尖らせたが日本がビジネスモードに入ってドイツに向き直ったのを見て大人しく退いた。
 「いや、長くはならん。ただ今回楽団ツアーの場所と楽団員の宿泊ホテル、それから交通ルートについてこれで合っているか暫定的で良いので確認して欲しい」
 「細かいところは家に戻らないと照合できないので……はい、お借り致します。帰宅した後お電話差し上げても宜しいですか? それともメールの方が?」
 「電話で頼む」
 「承りました」
 ポーランドが横で待っていることもあり手短に話を済ませ、ポーランドに「もういいぞ」と合図した。そわそわと様子を窺っていたポーランドがまた日本と話し始める。ここに居る用事もなくなったので適当に挨拶だけして立ち去ろうと踵を返したが、その足を止めた。一言だけ付け足そうと振り返る。
 「そうだ、おいポーランド」
 「なんなん?」
 「音楽プレーヤーはあまり音量を大きくするなよ。周りの迷惑になるからな」
 「えぇ? 俺そんなん持ってきてないし」
 ポーランドが訝しむような目でドイツを見上げる。頭の上にいくつか疑問符が浮かび始めた。同時にドイツの頭上でも疑問符が飛ぶ。
 「さっき日本の国歌をかけていたではないか。廊下まで聞こえていたぞ」
 「ああそれ、俺が歌ってたんよ。あーそんな大声やった? ごめんごめん」
 世界の国歌的なCDでも流していたのだろうと妥当に考えていたのだがどうやら違ったらしい。ポーランドに嘘を吐いている様子もなく素直に詫びた。
 「え?」
 驚いたのはドイツよりも日本の方だった。今まで口を挟むことなく会話を聞いていただけだったが目を丸くして声を挙げた。
 「……覚えて、いらっしゃったんですか? 何十年も前のことですのに」
 「そんなん、忘れへんし。日本には感謝してるんよ」
 にっと悪戯っ子のような笑顔をするポーランドに対して日本は泣き笑いの表情を見せた。それは感動に由来するものなのかそれともまた何か別に感情が動いたのか詳細の知らないドイツには図ることはできなかったがはにかんだ少女のように俯く日本の頭に手を伸ばしその丸くて小さい頭を撫でた。






アトガキ
ポーランドと君が代については「大和心とポーランド魂」というFLASH参照のこと。(ググってね!)
すごく( ;∀;)イイハナシダナーです。説明がないと全然理解できないな!\(^o^)/(←説明すらちゃんとやってない)
そういえば君が代は幼稚園の頃に覚えました。神道系の保育園行っていたので。祝詞とか玉串の捧げ方とかも覚えた記憶あるわwwすごく神社神社してたぜwwww学芸会は天孫降臨wwwww


『独→日←波 音楽ネタで取り合い』でした。
リクエスト、ありがとうございました!
取り合ってNEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!!!!!orz