Battle of tsingtao

同盟国共同戦線



 冬の兆しが北からゆっくり流れてくる頃、ヨーロッパでは欧州大戦が勃発し混乱を期していた。同時期、その大戦に乗じて日本はドイツに宣戦布告する。同盟国イギリスと連合し東アジアでのドイツの拠点、青島を陥落させる任務についていた。
 先に乗り込んだのは地理的に近く有利な日本である。それでもドイツ軍が形成した防塁に阻まれ二の足を踏んでいた。突撃するや否や。飛び交う射撃音の中決断に迫られていた。後方からひどく焦って伝令がきたのはこの時である。
 「後方にドイツ軍部隊発見、挟み込まれた可能性有り」
 上司は顔を歪ませ日本を見た。冷えた血液が指先へ回る。
 「応戦せよ」との上司の言葉に伝令役は焦って通信所まで帰っていく。日本は重い装備を背負って後方部隊へ向かった。
 


 「信じらんねぇ。マジ信じらんねぇ」 
 満天の星空の下、イギリスは膝を抱えて恨みがましく星を睨んでいた。隣で日本が何度も頭を下げ困ったような顔で謝罪している。
 「俺味方だろバカ……」
 「すいません、すいません本当にすいません」
 昼間、後方からぞろぞろとやって来たドイツ軍に応戦し、見事捕虜にした。と思ったが実際調べてみれば相手は遅れて来たイギリス部隊であった。イギリスが後ろ手に縛られ日本の前にしょっ引かれてきた時は血の気が引いて気絶しそうになった。世界に冠たる大英帝国様が捕虜、どんな言いがかりをつけられてもおかしくないと覚悟した。中世の戦のようにお互いの旗でも持っていれば間違うこともなかったろうが今は似たような軍服と銃、ヘルメットだ。遠目に見て些細な色の違いなどは確認していられない。その上相手が西洋人だとはわかってもドイツ系かイギリス系かなど日本人にはまず見当もつかなかった。ヨーロッパの人間は全員同じに見える。だがそれは免罪符にはならない。
 「遅刻したからって何も撃つこと無ぇじゃねーかよ」
 「すいません、ドイツ軍と見分けがつかなくて……」
 「全然違うだろ! 俺あいつみてーに野暮ったくねーよ!」
 いや、一緒に見える。日本は出掛かった言葉を何とか必死に飲み込んだ。
 「折角しっちゃかめっちゃかになってるヨーロッパを置いてこっちの様子見に来たってーのに」
 更に項垂れるイギリスに日本は申し訳なさだけが募った。欧州の混乱ぶりは新聞を通じて聞かされている。今回の大戦は日露戦争の時のように単純に1対1では済まないのだ。補給路に戦線の維持、周辺諸国の動向と駆け引き、頭が痛い話ばかりが山積みにヨーロッパを横たわっている。イギリスに会うのは久々だがどことなく疲労の色がその瞳に見えた。
 「あの、久しぶりにお会いできて嬉しいです。お急がしい中わざわざありがとうございます……本日の失態は本当にスミマセンでした」
 もう一度頭を下げて、イギリスを見遣ると今度は黙り込んでしまった。今日のことは彼にとってそれほど屈辱であったのかもしれない。膝を抱える腕にぎゅっと力を込め唇を結んでいる。とはいえ、何か要求があるならまだしも日本には謝罪以外に彼を宥める方法は思いつかない。何度も謝罪の言葉を口にしているがゴメンナサイも言い過ぎてそろそろ安売り状態だ。心苦しくなってきた。
 夜営のテントを一瞥する。ランプは消しているが月明かりで十分見えた。将兵用のテントはまだスペースが広い。冷や汗を流しまくる上司曰く「久々の同盟国の再会、積もる話もあるだろうハハハ」ということでイギリスと同じテントにしてくれたが何のことは無い「機嫌取っとけ」との副音声が駄々漏れである。
 「……お前!」
 「はい!」
 急に大声を出されて心臓が跳ね上がる。心臓だけでなく反射的に肩まで竦んでしまった。上司への恨み言を中断してイギリスを見る。どこか怒ったような顔をしていた。
 「まさかとは思うが……わ、わざととかじゃねーだろうな?」
 「はぁ?」
 「俺のことが嫌いでわざと撃ったんじゃねーのかっつってんだよ!」
 「え、いやいやいやいや。しませんよそんなこと!」
 これから尋問でも始める憲兵のような目つきで日本を見ている。どこでどう彼に確信付けてしまったのか、相当疑念の目を向けられている。
 「だって、そんな俺とジャガイモ見間違うとか普通するワケねーし、だったら俺とわかってて撃ったとしか」
 「あの……ごめんなさい本当にドイツ軍に後方を衝かれたと思い込んでしまって、申し訳ない」
 イギリスは納得できないようだった。恨めしそうにじっとり睨まれて据わりが悪い。身を捩って座りなおし油で黒く汚れたカーキ色の裾を分厚い手袋のまま摘んだ。
 「嫌いになんてなったりしませんから」
 今言っている言葉、これから言いたい言葉の一つ一つが恥ずかしい。じっと掴んだ袖を見つめる。
 「あなたは私が選び、そして私を選んで下さった大切な同盟国。失い難い方なんです」
 改めて言葉にするのは頭が火照った。初めて告白する10代の少年少女ではないのだから、そう言い聞かせてもイギリスの顔を見返すことができない。偽り無く本心、だがこの愚直な言葉に皮肉屋の彼がどう切り返すのか恐い。
 審判を待つような気分だ、胃の辺りがずっしりと重い。そろそろ日本が己の言動を後悔し始めた頃、掴んでいた手を振り払われそのまま逆に腕を掴まれた。
 「嘘じゃねーだろーな!」
 「ほ、本音ですよ!」
 「いきなり同盟解消したいとか、言い出さねぇな! 絶対だな!」
 「当たり前じゃないですか!」
 そう言うと腕を離される。顔を上げるとどこか安心したようなイギリスが居た。その表情は溺れていた人間がやっと岸辺に着いた時のような顔に似ている。深い息をついてイギリスは腕を下ろした。
 「えっと……もうお休みになられますか? 今日はお疲れでしょう。私は一度見回りをしてきますのでお先にどうぞ」
 ゆっくり立ち上がる。一人の方が眠り易いだろうと気を遣ったのだが、今度は強めに裏膝に手をかけられ体勢を崩す。わっと声を挙げてイギリスに寄りかかるように凭れかかっていた。
 「久々に会った同盟国……だろ、もうちょっと話……や、愚痴くらい言わせろよ!」
 「え、あの……はい」
 体勢を立て直そうと身動ぎすると拘束するようにぐっと抱きすくめられる。
 「え、っと」
 「寒いから、これで丁度良い」
 先ほどよりもイギリスの顔が間近にあって思わず視線を逸らす。確かに秋も深くなってきて冷気が漂う時刻だが、暖をとるのなら焚き火の方が良いのではないだろうか。そう思いつつも動けず抱え込まれるような格好でイギリスに凭れかかる。
 「……明日から、俺たちはヘルメットに白い布巻いとくから。そしたらお前も間違うことないよな」
 「ありがとうございます……」
 うん、とだけイギリスが呟いて沈黙する。
 肌は一切触れ合っていない筈なのにじんわりイギリスの体温が伝わってきて日本はゆっくり目を閉じた。

 






アトガキ
目印つけても次の日撃たれますけどね!!

可哀想なイギリスの話
WW1の青島攻略戦は日・英陸軍合同で行われました。
・イギリス軍、上陸四日後にドイツ兵と間違われて日本兵に射撃される。何回も間違われる。日本人ドイツ兵とイギリス兵が見分けられない。
・白布をヘルメットにつけて「これで目印な!」と決める→やっぱりドイツと間違われて狙撃される
・間違われたイギリス将兵日本軍の捕虜に。「ちょwwww英語喋れるやつ出て来いwww」→殴られる
・青島攻略後、青島に残ったドイツ居留民(民間人)はイギリス将兵を罵倒
・一方日本国内に移送されたドイツ兵捕虜と日本人は仲良しに。第九の喜びの歌とか歌ってもらったり和気藹々としてた

大英帝国様が可哀想すぎて全俺が泣いたwwwwww
イギリスが疑り深いのは折角できた新しい友達に嫌われた!?とテンパってるからです。