sex appeal

貴方の魅力 風采編



 暗いホテルの部屋でベッドに転がり、日本は恍惚とした表情を浮かべながら自分に圧し掛かるトルコを見つめていた。息を短く吐いてはいるが息を肺にいれることはできない、そんな不思議な呼吸困難に陥りながらも欲が満たされる幸福感に笑みが浮かぶ。腕を伸ばして仮面の男に触れると彼はその手を掴んで並びの良い白い歯を見せて笑った。
 「嬉しいや、いつになくノリ気だなぃ」
 そう言いながら彼は掴んだ手に頬を擦り寄せ、においでも確かめるようにざらざらと荒れた唇を押しつけた。
 「恥じらうアンタもその気のアンタもどっちも大好物よぉ……結局組み敷く相手がアンタなら何だっていいんだがな」
 岩のようにごつごつした武骨な指が日本の腕をするすると撫でていく。情熱的で夢想的なセリフを臆面もなく口にしながら至極愉快そうに日本の首筋にキスを落とした。日本がとこどころと跳ねた短いくせ毛をくしゃくしゃと撫でると、トルコがキスを辞めて日本を見た。
 表情の見えない白い仮面を見つめていた日本だったが、一拍の後どちらともなく唇を食んでいた。それは口唇の柔らかさを確かめるようなものに始まり次第に舌を絡めて互いの呼吸を求めるような、侵食し合うようなキスへと変わっていく。角度を変える度に鼻が擦れて、合間から漏れる声の、吐息の、唾液の、淫靡な音が耳に触った。
 唇が離れた時、日本は陶然としながらトルコを小さな笑い声を挙げた。
 「なんだい、キス一つでバカになっちゃいめぇな」
 それを見下ろしながらトルコは愛しげに日本の頬を撫で、首筋を伝わせてシャツの襟口に指をかける。大きな手で器用に釦を外すが、一つ目で日本の手にやんわり止められた。
 「見れば見る程に良い体つきでいらっしゃると思っただけですよ」
 笑みを浮かべながら日本はトルコの手を退けて自分で二つ目の釦を外した。照れたようにトルコが馬鹿野郎、と笑いながら崩れた江戸弁で一言ぶって自分も着こんでいたパーカーを脱いだ。
 「俺の体が目当てってか?」
 「かもしれませんよ」
 トルコは豪快に笑い飛ばして下に着ていた汗ばんだタンクトップも脱いだ。
 逞しい腕と胸筋で盛り上がった胸板が健康的に日焼けした肌の色によく調和している。見るからに硬そうな腹筋や持って生まれた体躯、太い二の腕と肉質の良さそうな肩と濃い体毛、野性的でにおい立つ雄の匂いは一種理想の男性像である。先程は否定も肯定もしなかったがもしかしたら真に体目当てなのかもしれない。食人習慣があるわけでもなく、況してや空腹でもないのに「おいしそう」という言葉が頭を過った。
 「手ェ止まってんぜ、それとも焦らしてんのかい?」
 釦に手を掛けたままの手を軽く指で突いてからかう様に日本を促す。
 「焦ることはないでしょう、貴方に見惚れる余裕くらい下さいな」
 「そういうことなら存分に」
 どうぞ、とでも言いたげに腕を開いて、ナイトランプの頼りない明かりを受けながら均整のとれた体を起こした。仮面のおかげで細やかな表情は読めない。無表情を気取ったマスクの下を想像するのは興奮を誘うものがある。今己を見る目は見た目の通りに野性的で野獣のように捕食者の目をしているのか、優しい彼らしく慈愛に満ちた目で見ているのか、想像するだけで愉快だ。同時に服は脱いで仮面は着けたままというのはアンバランスに思えてまた小さく噴きだすと、今度は笑われたと感じてトルコがぼやいた。
 「おいおい、人の体見て笑うこたぁ無ぇだろ」
 「ふふっ……いえね、違いますよ。シュレディンガー的な楽しみ方をしていた迄なんです」
 「あんだって?」
 俄かに降って湧いたこの場にそぐわない名前にトルコが怪訝な声を挙げる。
 「バスルームに猫でも隠したんかい?」
 「そんな可哀想なことしませんよ。ただ……貴方が今どんな表情をしているのか、仮面の下を想像して楽しんでいただけです」
 その答えにトルコが派手に噴き出して笑う。
 「アンタらしい粋な遊びだねぇ。どれ、答え合わせといこうや」
 徐に仮面を外した男のオリーヴグリーン色した目はどこか背徳的な情欲を静かに滾らせていた。日本は息を呑んで足の指先をきゅっと丸める。予想外の扇情的で不躾で、余裕のない視線に彼もただの男なのだと知らされた気がした。
 「俺ァ今、どんな顔してアンタを見てる?」
 トルコは整った白い歯を見せてサディスティックに笑いながら余裕ぶって再度日本にキスをした。彫の深い輪郭と眉下で織り込まれる瞼、アラブ系と西洋系が混ざった容姿と若者とは違った、壮者の色気。うっとりする程に男前で、ハンサムで、苦味走ったいい男、そんな男が内に秘めた激しい情火に身を焦がそうとしている。そう考えるだけで増す卑しい感情も、普段日本は己を叱咤するものだが、今だけは心地良いものに思えた。





アトガキ
Q相手のどこが好きですか
日「イケメンでマッチョで仮面なところです!(`・ω・´)キリッ」
という話でした。もう一本続きます。一本に収めるつもりでしたがgdgdベッドシーン書いてたら長くなってしまった…続きはエロじゃないよ!

因みに去年土日希で90%がエロシーンのコピ本出した時に友人から「トルコがオッサンくさすぎる」「お前の書くエロシーンはなんかぬるぬるしてる」との評を頂きました。何だよトルコはオッサンだしエロってぬるぬるしてるもんじゃねーの。何も間違えてないじゃまいか。
最近土日を書く時ベッドシーンばっかり書いてる気がする……いや気のせいだよ…気のせい…