「悪い。お前んとこの船デカすぎてここ通れねぇわ」
 建前ばかりに塗りつくされた言葉にひどくイライラした。


 近道封鎖



 目の前の隠しきれていない笑顔を今すぐにでも懐の銃で撃ち抜いてしまいたい。
 思わず動いた腕をまさかそのまま引き金を手にするわけにもいかず腕を組むことで体裁を保つ。
 「でもここを通れないと困るんだ」
 首を傾げればイギリスは尚もにやにやといやらしい笑みを浮かべながら息をつく。
 「だから通れねぇっつの。お前俺が困るからっつて蟻んこの上に象乗っけれるか?」
 喫水の深さがどうの、と適当な説明を加える。
 確かにそれは事実だろう。スエズ運河は比較的浅い。
 しかしそれ以上に。この男がこの笑いを隠しきれない理由を知っている。
 潮風と共に細かな砂が舞う。
 「君、日本君には凄い執心ぶりだね」
 「同盟国と親交が深いのはいいことだろ? どっかの形だけの友好じゃなくってな」
 ハハ、と乾いた笑いをあげてイギリスがその場に座り込む。
 見上げてくる緑色の目は非道く挑戦的で、いちいちカンに触る。
 「悪いね。フランス君はちゃんと中立守ってるだけだから」
 「俺も中立だろ」
 いけしゃあしゃあと。この男の二枚舌というのは外交時以外でも発揮されるのか。
 「中立国は通せんぼしたり悪い噂流したり隣国を脅したりしないよ?」
 「お前の被害妄想だろ。いつ俺がお前んとこに危害加えた? 寧ろこの前お前んとこの狂犬が俺んとこの漁船沈めやがったよなぁ」
 「はは、まだ根に持ってたの」
 君も中々に記憶力の良い人だねと言えば彼の太い眉が寄った。
 「ねぇ、そんなに日本君のこと大事? 何で?」
 「利用するだけの価値があるから。外交の理由でそれ以外考えられるか?」
 後で艦隊がけたたましく汽笛を鳴らした。
 大きな煙突から排出された黒い煙が青い空に溶け込んでいく。
 鼻で笑うイギリスを見下ろす。
 「この前の陸戦の時、味見する機会があってさ」
 汽笛が止むか止まないかのところで呟く。
 それを耳聡く聞いたらしいイギリスが一瞬血相を変えたように見えた。
 「線は細いし、声は男の子じゃない声みたいだし。君がハマるのも仕方ないかななんて」
 「てめぇ」
 それまで余裕を見せていたイギリスの顔が滑稽な程に歪む。彼の手はゆっくりベルトに伸びて、ホルダーを外した。
 「あの子が最中何を言ってたか教えてあげようか?」
 「それ以上続けてみろ。お前は東で日本、西で俺の二人相手に戦うことになんぞ」
 「そういう君こそ、今僕の後にあるもの見えないの?」
 背後に目を走らせると40隻の船が悠然と煙を吐いて停泊していた。
 自慢の世界最強、バルチック艦隊。
 一斉に集中砲火を浴びせればこのスエズ運河も修復不可能なまでに破壊できる自信はある。
 イギリスが顔をしかめて睨んできた。いい気味だ。
 こみ上げてくる笑いを押し隠す。ああ無理だ。
 口を押さえて笑いを堪える。イギリスの顔を見ていると余計笑いが止まらない。
 「おい」
 「……仕方ないね、喜望峰回ることにするよ」
 咳払いをして誤魔化す。
 笑顔をつくるとイギリスは面食らったように目を丸くさせた。
 「あ、でもここ通れる小型艦は通っていいんだよね?」
 潮風が吹いてくる。
 上着が遊ぶように揺れて、バサバサと音をたてた。

 「彼にヨロシク言っておいて」
 踵を返してそのまままたあの油臭い軍艦へと向った。













アトガキ
日英同盟に触発されて、スエズ運河でロシア様を通せんぼするイギリスです。
イギリスったらドッガーバンク事件で相当怒ってるよ!
っていうかそれでブチ切れてスペインを「ロシアに炭も水もやるなよ!やったら中立破棄とみなすからな!」て脅すイギリスもやっぱり海賊紳士です。KOEEEE!!!
バルチック艦隊20だっけ40だっけ…間違えてたら後で直そう。
トルコさん出たらポルポラス海峡封鎖の話も書きたいけど被るなあ。





**おまけ この後イギリスが日本に電話しました。
英「おい、バルチック艦隊が今喜望峰に向ったぞ」
日「イギリスさん、いつも情報有難う御座います。今邀撃の準備をしているところです」
英「そうか……ところで………あー、その、だな」
日「はい?」
英「お前この前の陸戦でロシアに何かされなかったか?」
日「え? 何かって…まぁ負傷はさせられましたけど……」
英「いや、へろへろとかぱふぱふとかきょいきょいとかいんぐりもんぐりとか」
日「なッ……! イギリスさんのバカ! 破廉恥! 不潔です!(ガチャン)」
英「え!? ちょ、ま、日本!? 日本!?」
 「ツーツー」
英「……カツガレタorz…」