Battle of Incheon

憎むことで気づいたのは思慕の情



 


 「ねーぇ、フランス君」
 子供のような呼びかけな反面声に険が含まれていることに気づいてフランスは日露開戦を報じる新聞を降ろし突然の来客に目を向けた。ドアに凭れかかった軍服姿で長身の男が笑みを貼り付けている。
 「僕達友達だよね?」
 新品のコートの下は黒く汚れ破け、笑顔を湛える頬には黒く固まった血がこびり付いていた。
 フランスは取り落としかけた新聞を丁寧に机の上に置き再度顔を上げる。後から羽織ったのであろうコート以外、マフラーや軍帽は悲惨なことになっている。海水に浸かったのであろうズボンの裾からは一定の間隔で滴が廊下に垂れていた。
 「え……えぇ? マジか?」
 やっとのことで挙げたフランスの声がお気に召さなかったロシアは片眉を少し上げた。程なく彼の顔から笑顔が消える。見るからに気分を害したと言わんばかりに目を背けた。
 「ちょっとここに居させて」



 やっとのことで無理やり頭に現状を把握させたフランスは何とか驚きを表面に出さないように努めることでとりなした。負傷しているらしいロシアを公室に招き入れ、内線で呼び出した部下に蒸しタオルを部屋の外まで届けるように命じる。その間ロシアは表情を作る様子もなく口を閉じていた。
 フランスは客人を残し室外へ出た。濡れた毛の短い絨毯を硬い靴底で踏む。ロシアと日本が既に交戦状態に入ったことは国内外の新聞から聞かされていたしロシア本人からもそのことで連絡があった。そして今日がここ仁川港の港外で初戦が行われることも生真面目な日本から『巻き込まれないようにご注意を』などとわざわざ通達があったので知っていた。慌ててやってきた部下から蒸しタオルを受け取り人払いするように命令する。万が一にも報道されるまでは初戦で敗退した同盟国の姿を見せる訳にはいかない。
 いぶかしむ様子の部下の尻を叩きフランスは部屋へ戻った。ソファに沈んでいたロシアは愛想を振ることも忘れてフランスを一瞥した。
 「ほれ、拭けよ。何なら後でバスルーム貸してやってもいいぞ」
 「いいよこれで」
 タオルを受け取りロシアは頬に擦りつけた。凝血していた黒がすこしずつ赤く真っ白なタオルに染みていく。
 フランスは手持ち無沙汰に神経質に顔を覆うロシアを眺めていた。物音を立てぬように自分用のデスクチェアまで回り込みやっと一息つく。仁川港は主要港湾でもないためにロシア側も防備が薄かったといえば言い訳になるだろう。誰もがロシアの勝利を疑わない戦争の幕開けは蓋を開ければ意外なものであった。ただのラッキーパンチだとフォローすることもできるがきっとそれではロシアのプライドが収まらない。
 じっとロシアの動向を窺っていると彼から沈黙を破った。
 「負けた」
 一言。今を形容するのに十分すぎる言葉だった。
 ロシアの惨状をみれば相当な愚か者でも勝敗は察しはつくだろう。しかし彼がそれを口にすることはそれを認めることだった。白いタオルに覆われた表情は知れないがロシアの声は震えている。
 「日本君は傷一つ負ってない。おかしいよね? おかしいよね? 僕1500発以上撃ったんだよ!」
 フランスは無言のまま敗者を見詰めていた。平生温厚な彼が悔しさからか憤りからか珍しく声を荒げている。赤く染まったタオルを握りこんでロシアは息を吸い込んだ。
 「彼は無傷だ! 僕はこんなにもボロボロなのに! 無傷!」
 唸るように悪態を吐いて理解が追いつかないのか感情に駆り立てられているだけなのか彼は事実を繰り返す。
 「憎い、彼が憎い! 欲しいのに手に入らない、優しくしてあげてもそっぽ向く! 彼は僕のことを嫌ってるんだ。僕は彼が欲しくて仕方ないのに、どれだけ労力を費やしても懐柔されない! こんなにも愛してあげてるのに!」
 怒りで醜悪に歪んだ顔を上げてロシアが獰猛な獣のように吼えた。握った拳で苛立たしげに何度も膝を叩き、……動きを止めた。豆鉄砲でも食らったかのように目を丸める。無表情に近かった。
 「ああ、愛してたんだ」
 今度は今まで静観していたフランスが驚く番だった。ロシアにしては稀有に情熱的な言葉だと思っていたのにどうやら感情に任せて無意識に発していたものだったらしい。それ程取り乱すまでにロシアにとって今回のことはショックだったのだろう。
 しかし彼は今や既に立ち直っているように見えた。切り替えが瞬時なのは流石と賞すべきところだろうか。普段のようにロシアは莞爾として微笑み思い出し笑いをするように肩を揺らした。
 「ねぇフランス君、上海まで送ってくれないかな?」
 首を傾げてロシアがフランスを見た。まだ少し血の色が混じった金髪が流れる。
 「僕降伏なんかしない。ワリャーグとコレーツは自沈させて水兵達を上海に留まらせるよ。まだ僕は負けないんだ」
 フランスはやっと「わかった」とだけ告げると満足そうにロシアは立ち上がった。彼の青い瞳に狂気じみた明るい光が差しているのを感じ取りながらフランスは喉を鳴らせた。










アトガキ
フランスが全然喋らないけどこんなもんです。

こん時の日本の強さはガチすぎる。初戦が無傷で完勝ってパネェwwwwww
殺伐とした露日って久しぶりかもしれません。日本いないけど。
狂気じみた殺伐露日が大好きです(*´∀`*)殴り合ってればイイ!
あとこの時の逸話ですが
巡洋艦「やべぇwww鯨刺しちゃったwwwww」
参謀「鯨? 何のことよ」
巡洋艦「鯨ってそりゃぁ大きい魚のことだよ!」
参謀「ちょwwwwおまwwwwww」
本当に艦首に鯨が刺さってたんだそうですwwwwww何をwwwしてるんだwwww