「夢オチで良かったー!!」
 気付けばそう叫んでいた。
 起こした上半身が外気に晒されて寒い。
 短く切れる息を整えようと胸に手をやれば100m全力疾走した時のように心臓は活発になっていた。
 本当に夢か?
 いやな考えが頭をよぎる。自分は今服を着ていない。
 欧米のように裸で寝る文化など持ち合わせていないし風邪をひくので奨励もできないから普段今までは避けていたのだが。
 顔が引き攣った。
 そろりと腰を浮かせれば常の如く痛みも軋みもなく簡単に浮いた。
 よくよく見れば着物が完全に下に下がって帯のところでくしゃくしゃになっていた。なんだ余程寝相が悪かったのだろう今日に限って違いない。
 良かった、夢だ。夢。
 今更ながらであるがもう一度叫びたい。夢オチで良かった。


 夢オチ


 「にほん?」
 「あ、すみません起こしてしまいましたね」
 隣でした声に顔を向けようとして慌てて下を向く。
 あんな夢を見た後だ。今顔を合わせたらそれこそ頭が沸騰する。
 合わせる顔もないという言葉があるが今がまさにその通りだ。
 忘れろ、夢なんて数時間もして且つ思い出すという記憶に影響を与える好意さえしなければ忘れられるんだ忘れろいいから忘れろ思い出すな。
 「ん…」
 伸びてきた腕が肩を掴む。そのまま絡み付いてきて、冷たくなった肌にじんわり温い肌が当たる。
 「ひぃぃぃぃ!!」
 口から心臓が出る!
 本能的に手で口を塞ぐ。飛び上がって萎縮した肩を抱けば後から更に体重を掛けられた。
 「日本つめたい……」
 すみませんそこの大きい猫さん頭をこすりつけないでくれますか匂いつけですかマーキングですか。
 ぎゅ、としがみついてくる人間を引き剥がすこともできず更に身を小さくする。
 「あの、すみません放して放して頂けますかお願いしますホントお願いします」
 「えー…」
 駄々を捏ねるようにギリシャが腕に力を込める。心の底から懇願したというのに逆効果だったようだ。
 「日本どうかしたの?」
 どうしたもこうしたも貴方のせいなんですが。
 首を振れば夢で見た光景がフラッシュバックする。ああもうヤメてくれ何の拷問ですか穴掘って今すぐにでも死にたい。
 「にほん、からだ悪い?」
 すみません違います私が悪いのは頭です。
 「……にほん」
 どうしよう今まで生きてきたなかでもしかしたら今が一番恥ずかしい。羞恥で死ねるなら私はもう既に何回ぐらい死んでいるのだろうか。
 よし、よし。もうここまできたら腹を括ろう私とて潔さを芳しとする日本男児。潔くこの場をすり抜けます。
 「ギリシャさん」
 「なーに?」
 「少々変な夢を見てしまって混乱しただけなんです私は大丈夫ですだから放して下さい」
 暗記したセリフを並び立てるように一息に言い切ってふぅと息をつく。
 「夢ってどんなの?」
 『放して』を心持強調したつもりであったが何故夢の法に食いつく。
 ギリシャの勘の鋭さにはいつも感嘆するばかりであるがこんな時にばかり発動しなくていいと思う。
 「言えません」
 上擦った声を隠そうと身を捩る。動けなかった。
 「にほん」
 「言えませんってば!」
 夢という単語を何故だしてしまったのか。バカ、適当なことを言えばよかったのに私のバカ。
 「も、黙秘権を行使します!」
 「教えてくれるまで…放さないからいい」
 良くない!
 ギリシャの肌が直に触れる。
 確か一定数以上心臓って鼓動すると停止するとかいう話ありませんでしたっけああこれ私寿命どれほど縮まってるんでしょうか。
 現実世界にはライ○カードもライフラインも出てこないしなんて不便なんでしょうかね。
 進むも地獄戻るも地獄、この状況は如何がしたものか。
 そうだ引き篭ろう。洗いざらい話してしまってまた鎖国しよう。朝から冴えてます私門戸を全て閉ざしてしまえ。


 「あの、その…あなたと淫kあああああああ言えるわけない!」


 急に振上げた腕が後にへばりついていた彼にぶつかったらしく、痛、と小さく呟くのが聞こえた。









アトガキ
夢オチじゃなかったバージョンはきっと誰かどこかの神がかいてくれると信じて本当に夢オチでしたバージョン。



ちなみにライフカード
 ・言う→「日本ばっかり夢でヤるとかズルい」→ギシアン→デジャヴ
 ・言わない→マジで離れない→希欲情→ギシアン→デジャヴ

私の脳内なんてこんなもんです。